■「本の旅人」インタビュー再録  2005 Nov 23 (Wed)  


◎以下に「本の旅人」11月号のインタビューを再録します。
◎構成・文責は、角川書店の同誌編集部です。


■新連載小説『幸福日和(しあわせびより)』をめぐって
 次号予告○盛田隆二インタビュー


 「野性時代」2004年12月号に掲載された盛田隆二さんの
「ふたりのルール」をベースにした長編の連載が、小誌次号
(2005年12月号)より開始されます。
「ふたりのルール」は、上司と部下による不倫の関係という
設定ですが、ふたりがおたがいを思いやる気持ちが切なくて
愛おしいと、読者の方々から熱い支持をいただいた短編です。
この作品を振り返りつつ、新連載への意気込みなどについて
語っていただきました。


――「ふたりのルール」を基にして長編『幸福日和』を執筆し
ようと思われた動機をお聞かせいただけますか?


盛田■はじめに、「ふたりのルール」を未読の方に、少し内容を
説明しますと、まず主人公は経理部で働く30歳独身の花織です。
花織が25歳のときから5年間交際を続けているのが、彼女が
勤務している職場とは通りひとつ隔てたビルにいる白石です。

白石は花織の元上司で、現在、子会社の部長。42歳で妻子が
いるので、ふたりの関係はいわゆる不倫ということになります。
「野性時代」ではクリスマス特集ということでしたので、この
ふたりの交際5年目のクリスマスにスポットを当てて短編作品
にしました。

さて、書いてはみたのですが、ふたりの設定をこのまま一短編
作品で完結させてしまうのは、名残惜しいという気持ちがあり
ました。たとえば「ふたりのルール」では花織と白石が交際を
始めるきっかけのようなものは一切書いていません。

5年間の中で、いくつかのトピックスは差し挟んでいますが、
もっといろいろあったはずだし、今後ふたりがどうなっていく
のか、短編だけ読む限りではまったくわかりません。

それにくわえて、読者や知人から「ふたりのルール」の長編を
読みたいという声が多数ありました。このふたりの恋の顛末に
自分なりに決着をつけたいという気持ちがまずあって、それを
周りの方々が後押ししてくれたというところでしょうか。


――今、お話の中で、花織と白石の交際のきっかけという言葉
が出てきましたが、とても興味深いところです。よろしければ
さわりだけでも教えていただけますか。


盛田■白石は温厚でまじめで、家族のこともとても大切にして
いる男です。それでいてなぜ部下の花織とそんな関係になった
かというと、おそらく25歳の花織が失恋して、会社でもつらい
思いをしたときに、相談する相手が欲しかったと思うのです。

けれど同年代の男たちは、遊び盛りで子どもっぽくて、とても
相談する気になれない。そんなときに、自分の身近なところに
とても頼りがいのある上司の白石がいた。だから最初は花織が
白石に悩み事を相談するところから始まるのかなと思います。

白石はまじめな性格で、部下にも優しくて、それでいて組織の
中で幾つもの挫折を経験しています。家庭でもそれなりに波風
はあったかもしれないけど、いろんなことを乗り越えた37歳
の上司として花織の目の前に存在しています。その白石に相談
に乗ってもらっているうちに、どうしようもなく彼のことが
好きになってしまう。

世間ではよく「たまたま結婚していた人を好きになっただけよ」
という言葉を耳にしますが、花織の場合は、結婚し、年を重ね
て、いろんな荒波を乗り越えてきた人だからこそ、そんな白石
を好きになります。きっかけとしては、そのようなイメージが
私の中にあります。


――その先も気になるところですが、連載でのお楽しみという
ことにして、最後に、読者に新連載への抱負を述べていただけ
ますでしょうか。


盛田■花織と白石は一定のルールを守って、ある意味ストイック
な不倫関係を続けてゆくのですが、花織は白石の妻から「妻の座」
を奪い取ろうなどとは決して思いません。月に二度か三度、白石
に会って優しくしてもらう。

もちろん、将来を思えば、不安になることは沢山あるけれど、
自分がいつまでも「恋人の座」にいられることの幸せを感じて、
それ以上のことを望まない。

結婚することが女の幸せという時代はとうにすぎていますが、
では本当の幸せって何だろうということを、花織と白石の関係
を通じて描いていけたらと思っています。