■『幸福日和』著者インタビュー■  2007 Nov 26 (Mon)  


◎2007.11.26 『週刊現代』 12.8号に掲載


 3年前、「野性時代」からクリスマスをテーマにした短編小説の

依頼を受けました。 そのとき書いたのは、社内で不倫をしている

上司と部下のOLが「セーターの毛糸がほどけるように二人がバラ

バラになってしまわないように」 様々なストイックなルールを決め

て、クリスマスを祝う話です。


「ふたりのルール」というその作品は、読者の反響が大きく、「この

恋愛がどうなるのか、もっと読みたい」 という声が多く寄せられま

した。 『幸福日和』はそれに応えて書いた長編です。


――出版社で編集総務の仕事をしている25歳の花織は、ファッシ

ョン誌の創刊が迫り、多忙だが充実した日々を送っていた。だが、

結婚しようと思っていた相手が女性問題を抱えていることを知り、

婚約を破棄する。悲しみにうちひしがれる花織に、新雑誌の編集長

で38歳の白石はやさしく包み込むように接し、 二人は互いに惹か

れ合う……。


小説では二人が付き合い始めてからの6年間を描いています。

9・11の同時多発テロや北朝鮮の拉致被害者の帰国など、その年

に現実に起きた事件も描き込んでいますが、 この小説に限らず、

僕は 「いつ、どんな場所で、誰が、どうした」 というディテールを

徹底して書くことが多いですね。

 小説は所詮、 作家の心の中に生起する幻影のような夢物語を

書き写したもの。 実在する場所や事件を物語にからませて描くこ

とで、 6年という時間の流れを表現したいと思いました。


 この小説のモチーフは 「女性にとっての幸せとは何か」というこ

と。結婚は必ずしもハッピーエンドではない。恋愛関係にある一組

の男女が夫婦という関係を選択することは、 ある意味、お互いの

恋愛感情に終止符を打つことです。 子供ができて父と母の関係に

なれば、なおさらですよね。


 花織が恋に落ちた相手は妻帯者。 背負い込んだ運命の重さは

量り知れないけれど、それでも花織は幸せをかみしめている。 漠

然とですが、 そんなイメージから 「幸福日和」 とタイトルを付け

て連載を始めました。


 小説には10年間不倫を続けている女性も登場しますが、彼女は

「妻の座」 とは別に 「恋人の座」もあるはずだと花織に説きます。

 そんな生き方が本当に幸せなのか、僕自身もゴールが見えずに

苦しみましたが、 結果的に花織の選んだ道がどんなにつらく切な

くても、 読者が応援したくなるようなラストにしよう。 そう考えて、

ある一つの幸せの形を提示しました。

「女性の幸福」というテーマをめぐって、男性読者がどう読んでく

れるかも興味深いところです。