■『幸福日和』書評■  2007 Nov 29 (Thr)  


◎2007.11.29 『週刊新潮』 12.6号 「TEMPO」 掲載


 著者には切ない恋愛を男性の側から描いて評価の

高い 『夜の果てまで』がある。本書はその対極。どこ

までも相手を想う女性の目線で書かれた恋愛小説だ。


 25歳の花織は出版社で編集総務として働いている。

仕事は堅実。色白でおとなしい性格だ。しかし簡単に

弱音を吐かない芯の強さがある。エリート営業マンと

の結婚式も近い。ところが、相手に妊娠までさせた

年上の女性がいることがわかる。婚約は破棄となり、

花織は深く傷つく。


 そんなとき、 自然な形で花織を支えてくれたのが新

雑誌の編集長・白石だった。先に気持ちが動いたのは

花織のほうだ。けれど白石は妻帯者であり、また若い

女性と距離を置く分別をもつ大人だった。花織もまた

生真面目な女性だ。もどかしさと狂おしさの中、二人

はゆっくりと未知の領域へと踏み込んでいく。危うくも

濃密な日々。やがて過酷な試練の波が押し寄せる。


 この物語では、 二人が働く新雑誌創刊の現場がリア

ルに描かれる。仕事が恋愛と並んで若い女性の人生を

大きく左右するからだが、著者の編集者としての経歴が

生かされている。 不倫という言葉では収容しきれない

恋愛の深層に迫る意欲作だ。