エッセイ再録 『フリースタイル』 VOL.9  2009 Sep 04 (Fri)  


 09年8月12日発行 『フリースタイル』 VOL.9
 【One, Two, Three! 】 コーナーに寄稿
 http://webfreestyle.com/freestyle-bn.htm

……………………………………………………………………

 ■盛田隆二 FAVORITE THINGS■
 《 2009.2.15 〜 5.31 》 発売&公開 ベスト3
  今回は3作品とも【本】から選びました

……………………………………………………………………

【本】 『地図−初期作品集』
    (太宰治/新潮文庫/540円)
 http://www.shinchosha.co.jp/book/100618/

【本】 『人を惚れさせる男−吉行淳之介伝』
    (佐藤嘉尚/新潮社/1785円)
 http://www.shinchosha.co.jp/book/314631/

【本】 『東部ジャワの日本人部隊−インドネシア残留日本兵
     を率いた三人の男』
    (林英一/作品社/2940円)
 http://www.tssplaza.co.jp/sakuhinsha/book/jinbun/tanpin/22407.htm



  太宰治と吉行淳之介。ブンガクに目覚めたばかりの15の春、

 私が夢中で読み漁った二人の作家の書物が、相次いで刊行さ

 れた。


  『地図』 は太宰が中学・旧制高校時代に書いた習作を始め、

 同人誌等に発表した作品を28編収める。健康的で溌剌とした

 文体にまずは驚かされるが、津島修治はいかにして太宰治に

 なったのか、作品を執筆順に辿ることによって、その変貌の軌

 跡が読み取れる。なかでも生活のために黒木舜平という筆名

 で書いた心理サスペンス「断崖の錯覚」に注目。太宰は同作を

 恥じていたというが、「道化の華」と並べてみると原罪意識が透

 けて見えて興味深い。


  生前の吉行淳之介の思い出を綴るエッセイ本は、愛人や本

 妻や母親(あぐり)や妹(和子)の手によって何冊も上梓されて

 いるが、『人を惚れさせる男』 は初の本格的伝記。著者は70年

 代を代表する月刊誌 「面白半分」 の発行人にして、ペンション

 経営者、 宮澤喜一の選挙参謀、 伊能ウオークの提唱者という

 異色の経歴を持つ佐藤嘉尚。吉行を人生の師とあおぐ氏の豪

 放磊落な気性がにじみ出た、型破りな評伝だ。


  三冊目は1984年生まれの若手研究者による長編評論。第二

 次大戦後、インドネシア独立戦争に身を投じた残留日本兵たち。

 著者は丹念な聞き取り調査と文献収集により、彼らの等身大の

 人生に迫っていく。 興味のある方は姉妹編 『残留日本兵の真

 実−インドネシア独立戦争を戦った男たちの記録』 (作品社)も

 ご一読を。アジアをめぐる歴史観に一石を投じる力作だ。


◎早稲田大学で「創作指導」を担当して3年目。
 「吉行淳之介って、あの有名なあぐりさんの息子なんですね。
 びっくりです」と女子学生。びっくりしたのは私のほうです。


■写真は、新婚時代の吉行淳之介。
 本妻の吉行文枝と写った貴重な一枚。