エッセイ再録 『フリースタイル』 VOL.10  2009 Dec 02 (Wed)  


 09年11月11日発行 『フリースタイル』 VOL.10
 【One, Two, Three! 】 コーナーに寄稿
 http://webfreestyle.com/freestyle-bn.htm

……………………………………………………………………

 ■盛田隆二 FAVORITE THINGS■
 《 2009.6.1 〜 9.30 》 発売&公開 ベスト3
  今回は2冊の【本】と【映画】を選びました

……………………………………………………………………

【本】 『インタートラベラー 死者と遊ぶ人』
    (鴻池朋子/羽鳥書店/2,940円)
 http://www.operacity.jp/ag/exh108/

【本】 『いずれは死ぬ身』
    (柴田元幸編訳/河出書房新社/2200円)
 http://snipurl.com/tio7x

【映画】 『行旅死亡人』
    (監督:井土紀州/製作:日本ジャーナリスト専門学校)
 http://www.kouryo.com/


 3作品すべてに 「死」 の文字が入っている。選んだぼく自身、びっ

くりしているが、これは決して偶然ではなく、時代の気分が引き寄せ

たのかもしれない。


 9月某日、東京オペラシティアートギャラリーで、 『鴻池朋子展

インタートラベラー 神話と遊ぶ人』 を見て、その迫力にぶっ飛ん

だ。

〈人間の心を地球という惑星として捉え、その深い闇の中へ旅をす

る〉 というコンセプトに導かれて、4章立ての巨大絵画や、人間の

足を持つ狼の群を描いた襖絵に目を奪われつつ、地球の中心部に

辿りつく構成だが、最後に待ち受けていたのは光を明滅させながら

回転する赤ん坊のインスタレーション。

 視覚効果も奏功して立ち眩みに似た墜落感を覚え、思わず手すり

にしがみついた人も多かったはず。その展示図版を収めた本作品

集は 「神話」 を 「死者」 と呼び換え、さらに闇の深部へと誘う。


 『いずれは死ぬ身』 はダイベック、オースターらの短篇アンソロジ

ー。紙数がないのでバロウズ作 「ジャンキーのクリスマス」 の魅惑

的なエンディングを紹介。

「参ったぜ、とダニーは思った。こりゃ薬なしで来たらしいぞ! マリ

ア様みたいだ! / 薬のもたらす、植物のような静謐が体内の組織

に降りたっていった。ダニーの顔が緩んで、安らぎ、頭ががくんと前

に落ちた。 / 車拭きのダニーは、いい気持ちだった」


 さて、映画 『行旅死亡人』。 低予算のハンディを感じさせないエン

ターテイメント作品としての完成度は瞠目に値する。これは井土監

督による巧緻で粘り強い演出に負うが、35年の役者生活で今回が

映画初出演となる 「たなかがん」 の役者魂にも大きな拍手を!


◎写真は『鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人』 より