コラム再録 『フリースタイル』 VOL.14  2011 Jan 22 (Sat)  


■2010年12月2日発行 『フリースタイル』 VOL.14
 【One, Two, Three! 】 コーナーに寄稿
 http://webfreestyle.com/freestyle-bn.htm#freestyle14

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 ■盛田隆二 FAVORITE THINGS■
 《 10.8.6 〜 10.11.5 》 発売&公開 ベスト3
  今回は、3冊の【本】を選びました

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【本】 『海炭市叙景』
    (佐藤泰志/小学館文庫/650円)

【本】 『妻の超然』
    (絲山秋子/新潮社/1470円)

【本】 『日本映画[監督・俳優]論』
    (萩原健一、すが秀実/ワニブックスPLUS新書
    /798円)

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■佐藤泰志は自律神経失調症に苦しみながらも、端正で尚

かつ骨太な小説を書き続け、5回にわたって芥川賞候補にも

なった作家だが、1990年41歳のときに自ら命を断った。


前年1989年に三島賞の候補になった際、江藤淳は佐藤の

「そこのみにて光輝く」を推したが、他の選考委員の賛同を

得られず落選。それが自死の引き金になったのかどうかは

不明だが、「文学は命がけですよ。少なくとも佐藤君にとって

文学は命をかけてのものだった」と江藤淳は述べるとともに、

翌年の三島賞の選評でも再び佐藤作品に触れ、もっと強く推

すべきだった、と悔やんだ。


『海炭市叙景』は佐藤泰志の遺作となった短編連作集。

長らく絶版になっていたが、小説の舞台になった函館市民

が主導した映画がこの12月に公開されることになり、20年

ぶりに文庫で復活した。身の引きしまる思いで膝を正して読

んだ1冊。名著です。


■……いかん。もう紙数がない。 『妻の超然』 は紛れもなく

絲山秋子の代表作となる中編集。3編とも「超然」をテーマに

しているが、自分に性的欲求がないが故に夫の浮気を放置

する40代主婦を描く表題作が圧巻。 空虚の深さ、その孤絶

感に作家の矜持を見る。


■最後に『日本映画[監督・俳優]論』。文芸評論界の暴れ

ん坊・すが氏が意外にソフトな聞き上手であることに驚くとと

もに、黒澤明、神代辰巳ら巨匠の素顔を次々とさらしていく

ショーケンの屈託のなさに脱帽。 特に「影武者」 の最初の

配役案裏話には腰を抜かす。

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