二人静
2010年9月16日 光文社 1800円+税 461頁
    
[Data]
#2007年7月号〜2009年1月号まで 月刊「本が好き!」(光文社)に19回連載+書下ろし
#起稿から脱稿まで3年、原稿用紙換算で1000枚、執筆期間も枚数も最長記録
#2010年9月16日、光文社より刊行
#2012年11月13日、光文社文庫 より刊行
#装 丁 : 鈴木成一デザイン室
(鈴木成一さんには「ありふれた魔法」の装丁もお願いしました)
#装 画 : 松嶋恵子
#編集者 : 大久保雄策(文芸編集部)、秋吉潮(「本が好き!」編集部)

厚さは33ミリ  「本が好き!」は残念ながら休刊

[書評・インタビュー他]
★印のついたものはWEB上で読めます
◎2010年9月 8日 『SAPIO』9/29号の「川本三郎/平成百色眼鏡」に書評掲載
◎2010年9月17日 『日経新聞電子版』に 著者インタビュー 掲載★
◎2010年9月26日 『日本経済新聞』に 書評(評者・田中和生氏) 掲載★
◎2010年10月7日 『日刊ゲンダイ』に 書評(評者・北上次郎氏) 掲載★
◎2010年10月12日 『本の雑誌』11月号に 書評(評者・北上次郎氏) 掲載★
◎2010年10月15日 『新刊展望』11月号にエッセイ「新作は14歳の母に捧げたい」寄稿★
◎2010年10月16日 NHK-BS『週刊ブックレビュー』で紹介 (評者・和久井光司氏)
◎2010年10月22日 『日刊チェンマイ新聞』に 書評(評者・朝山実氏) 掲載★
◎2010年11月1日 『読売新聞』夕刊の「新刊立ち読み」に短評掲載★
◎2010年11月7日 『東京・中日新聞』に 書評(評者・吉田和明氏) 掲載★
◎2010年11月7日 『朝日新聞』に 書評(評者・江上剛氏) 掲載★
◎2010年11月19日 『きらら』12月号著者インタビュー(by 瀧井朝世さん) 掲載★
◎2010年12月24日 北上次郎の 2010年ベスト10 に掲載★

[トピックス]
◎2011年2月5日『二人静』が第1回Twitter文学賞(国内部門1位)を受賞しました。尚、海外部門1位はミランダ・ジュライ著『いちばんここに似合う人』(新潮社)です
あなたが選ぶ「Twitter文学賞 ツイートで選ぶ2010年ホントに面白かった小説」総評 by 杉江松恋氏
Twitter文学賞の投票結果 1位〜18位
Twitter文学賞の趣旨 by 豊崎由美氏
★ 全国書店新聞 3月1日号 に記事掲載
★ 3月23日 Twitter文学賞が Yahoo!辞書 に新語登録
★ Twitter文学賞【国内編】全参加者560人の投票記録まとめ その@ そのA そのB そのC そのD そのE そのF

【写真・左】Ustream配信された「Twitter文学賞」結果発表座談会(左から佐々木敦、大森望、豊崎由美、杉江松恋、石井千湖の各氏)
【写真・中】国内・海外の1位受賞者に贈られる「あみぐるみトロフィー」(アルマジロひだか製作)、私はむかって左のトロフィーを戴きました。
【写真・右】日比谷図書文化館(旧・日比谷図書館)の「Twitter文学賞」受賞作・所蔵コーナー
     

光文社の書店向け広報誌「鉄筆」26号(2011年3月1日号)に寄せた手書きの受賞メッセージ
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[読者の感想]
◎読者のブログに綴られた 『二人静』の感想 をピックアップ

■有隣堂の梅原潤一さん作成POP


■盛田隆二の自筆POP


■BOOK1st川越店にて


■表紙カバー見開き


 

二人静(文庫版)
2012年11月13日 光文社文庫 933円+税 634頁
    
[Data]
#2007年7月号〜2009年1月号まで 月刊「本が好き!」(光文社)に19回連載+書下ろし
#起稿から脱稿まで3年、原稿用紙換算で1000枚、執筆期間も枚数も最長記録
#2010年9月16日、光文社 より刊行
#2012年11月13日、光文社より文庫刊行
#解 説 : よしもとばなな(公式サイト
#装 丁 : 鈴木成一デザイン室
#装 画 : 松嶋恵子
#編集者 : 園原行貴

厚さは25ミリ

[書評・インタビュー他]
★印のついたものはWEB上で読めます
◎2010年9月 8日 『SAPIO』9/29号の「川本三郎/平成百色眼鏡」に書評掲載
◎2010年9月17日 『日経新聞電子版』に 著者インタビュー 掲載★
◎2010年9月26日 『日本経済新聞』に 書評(評者・田中和生氏) 掲載★
◎2010年10月7日 『日刊ゲンダイ』に 書評(評者・北上次郎氏) 掲載★
◎2010年10月12日 『本の雑誌』11月号に 書評(評者・北上次郎氏) 掲載★
◎2010年10月15日 『新刊展望』11月号にエッセイ「新作は14歳の母に捧げたい」寄稿★
◎2010年10月16日 NHK-BS『週刊ブックレビュー』で紹介 (評者・和久井光司氏)
◎2010年10月22日 『日刊チェンマイ新聞』に 書評(評者・朝山実氏) 掲載★
◎2010年11月1日 『読売新聞』夕刊の「新刊立ち読み」に短評掲載★
◎2010年11月7日 『東京・中日新聞』に 書評(評者・吉田和明氏) 掲載★
◎2010年11月7日 『朝日新聞』に 書評(評者・江上剛氏) 掲載★
◎2010年11月19日 『きらら』12月号著者インタビュー(by 瀧井朝世さん) 掲載★
◎2010年12月24日 北上次郎の 2010年ベスト10 に掲載★
◎2013年1月31日 『読売新聞』に 書評(評者・片岡直子氏) 掲載★

[トピックス]
◎2011年2月5日『二人静』が第1回Twitter文学賞(国内部門1位)を受賞しました。尚、海外部門1位はミランダ・ジュライ著『いちばんここに似合う人』(新潮社)です
あなたが選ぶ「Twitter文学賞 ツイートで選ぶ2010年ホントに面白かった小説」総評 by 杉江松恋氏
Twitter文学賞の投票結果 1位〜18位
Twitter文学賞の趣旨 by 豊崎由美氏
★ 全国書店新聞 3月1日号 に記事掲載
★ 3月23日 Twitter文学賞が Yahoo!辞書 に新語登録
★ Twitter文学賞【国内編】全参加者560人の投票記録まとめ その@ そのA そのB そのC そのD そのE そのF

【写真・左】Ustream配信された「Twitter文学賞」結果発表座談会(左から佐々木敦、大森望、豊崎由美、杉江松恋、石井千湖の各氏)
【写真・中】国内・海外の1位受賞者に贈られる「あみぐるみトロフィー」(アルマジロひだか製作)、私はむかって左のトロフィーを戴きました。
【写真・右】日比谷図書文化館(旧・日比谷図書館)の「Twitter文学賞」受賞作・所蔵コーナー
     

光文社の書店向け広報誌「鉄筆」26号(2011年3月1日号)に寄せた手書きの受賞メッセージ
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[読者の感想]
◎読者のブログに綴られた 『二人静』の感想 をピックアップ

■有隣堂の梅原潤一さん作成POP


■盛田隆二の自筆POP



再録「二人静」(冒頭)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
      1
〈お父さまが道路で倒れて、川越市内の病院に救急車で搬送されたとの連絡が入りました〉
 町田周吾が総務部の女性社員から、そのメモを手渡されたのは、商品開発会議の最中だった。
 周吾はメモに目をやり、顔色を変えた。父は半年ほど前にも一度、家の近くで転倒して救急車で運ばれたことがある。そのときは軽症ですんだが、今回はどうなのか分からない。
「容態など、分かりますか」と小声で訊くと、総務部員は腰を屈めた。
「私のほうで確認させていただいたところ、まだ処置中とのことで、すみませんが、それ以上詳しいことは……」
「そうですか、どうもありがとう」
 失礼いたしました、と総務部員は一礼し、会議室を出て行った。会議には商品企画部の中津川部長以下、関連セクションから十二名のスタッフが参加している。
「うん? どうした」と中津川部長が声をかけてきた。
 周吾は事情を説明すべきか迷ったが、私事で会議を中断するわけにはいかないと思い直した。
「いえ、大丈夫です。続けさせていただきます。資料の二ページをご覧ください」
 一年前に発売してヒット商品となったレトルトカレーの売り上げが、ここに来て伸び悩んでいるが、スーパーとコンビニのデータをチェックしたところ、二ヶ月前に発売されたライバル社の競合商品にシェアを奪われている実態が明らかになった、と周吾は具体的な数字を示しながら現況を手短に説明し、味、品質、容量、パッケージから、宣伝、販売戦略まで、すべての面で見直す必要があると力説した。そして商品のリニューアルに向けた課題とスケジュール案を提示し、質疑応答に入った。
 営業、宣伝、研究開発、生産の各部門のスタッフから様々な意見や質問が出された。周吾は議事を進めながら、それらをメモに取り、要所で部長に意見を仰いだ。
「ありがとうございました。いただいたご意見を元にマーケティング課題をもう一度整理して、消費者調査の設計に取りかかりたいと思います。ウェブアンケートに続いて、グループインタビューを実施する予定ですが、みなさんには実査の前に、調査項目の最終チェックをしていただきますので、よろしくお願いします」
 周吾の案件が終わって時計を見ると四時半だった。メモを受け取ってから四十五分ほどすぎている。議題は続いて「セット米飯」の新商品開発に移る。商品企画部の同僚の住谷由郎がリーダーとなり、冬季の発売に向けて進行中のプロジェクトだった。
 リゾットや中華丼など、米飯とレトルト具材を組み合わせたセット米飯の市場は、数年前から二桁の伸びを続けているが、各社とも既存商品をセット米飯に転換させる動きが活発になり、競争は激しさを増している。周吾もこのプロジェクトの中核メンバーだが、父のことを考えると、かたときも落ち着かない。議事の進行を住谷に交代したところで席を立ち、中津川部長に先ほどのメモを見せて事情を話した。
「早く行ってあげなさい」
 思いがけず部長に強い口調で促され、ご迷惑をおかけします、と周吾は一礼して会議室を出た。
 商品企画部のフロアに戻ると、飲料担当の寺本綾乃が一人でデスクに向かっていた。周吾は病院に電話を入れ、父・恭三の容態をたずねた。転倒による頭部外傷の処置を終えて、精密検査をしているところだという。命にかかわるようなことはないんですね、と周吾は念を押し、これから迎えにいく旨を伝えて、電話を切った。
「どうされたんですか」
 綾乃が驚いた顔でこちらを見ている。
「うん、ちょっとね。外部から電話があったら、直帰したと伝えてください」
 周吾は事情を簡単に説明し、タイムカードを打刻して会社を出た。最寄り駅は新橋だった。山手線で池袋まで三十分、東武東上線に乗り換えて川越まで四十分ほどかかる。
 五時をまわったばかりの東上線の下り車両は、発車間際でもまだ空席がいくつかあった。周吾は座席に腰を下ろすと、親指と人差し指を開いて両方のまぶたを軽くもみほぐし、ふっとため息をついて目を閉じた。
 周吾の母親がパーキンソン病を患って、六十歳の若さで亡くなったのは三年前のことだった。八歳も年下で、なおかつ長年にわたって看護師として働き続けた気丈な妻が、自分より先に逝くことなど、父は考えたこともなかっただろう。