[短篇集] あなたのことが、いちばんだいじ
2005年9月22日 作品社 1300円+税 212頁
[Data]
【収録作品】ひらひら/あなたのことが、いちばんだいじ/折り紙のように/エーテル密造計画/穴のなかの獣/糠星
#装 丁: 水崎真奈美(BOTANICA)
#フォト: 佐内正史
#モデル: 安倍なつみ 『出逢い』 より
#編集者: 青木誠也
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[書評・その他]
★印のついたものはWEB上で読めます
◎2005.10.11 『ほぼ日刊イトイ新聞』の「担当編集者は知っている」に掲載★
◎2005.10.26 インターネット新聞 『JANJAN』の 「今週の本棚」 に書評掲載★
◎2005.11.5 未知の読者の「読書日記」。各短篇の紹介文がじつに簡潔明瞭なのでリンクを★
◎2005.11.8  『日刊ゲンダイ』の「話題の新刊」 に書評掲載★
◎2005.11.8  『女性自身』の「サプリな本屋さん」 に 著者インタビュー掲載(文/品川裕香)★
◎2005.11.17 『週刊新潮』の「TEMPO」に 書評 掲載★
◎2005.11.22 『週刊朝日』の「週刊図書館」 に著者インタビュー掲載(文/朝山実)


[関連講演]
◎2005.10.30 講演会.com 『あなたのことが、いちばんだいじ』 読書会 [⇒動画付き開催報告]

 


[短篇集] あなたのことが、いちばんだいじ(文庫版)
2010年6月10日 光文社文庫 514円+税 234頁
  

【収録作品 − 初出 − 執筆年齢】
「ひらひら」 (「すばる」1996年10月号) …41歳
「あなたのことが、いちばんだいじ」 (「小説宝石」2003年3月号) …48歳
「泣くかもしれない」 (「新潮」1991年6月号)★ …36歳
「折り紙のように」 (「表現者」2005年9月号、「父の愛人」改題) …50歳
「我々の美しい妻」 (「小説現代」2008年2月号)★ …53歳
「エーテル密造計画」 (「すばる」1997年10月号) …42歳
「糠星」 (「高二時代」1971年12月号) …16歳
# 単行本(作品社刊)所収作品に、新たに★印の二篇を加えました。
[Data]
#2005年9月22日 作品社 より刊行
#2010年6月10日、光文社より文庫刊行
#装 丁: 高林昭太
#フォト: Mitsuru Yamaguchi/a.collection/amamaimages
#編集者: 鈴木広和

[書評・その他]
★印のついたものはWEB上で読めます
◎2005.10.11 『ほぼ日刊イトイ新聞』の「担当編集者は知っている」に掲載★(単行本)
◎2005.11.8  『女性自身』 に 著者インタビュー掲載(文/品川裕香)★(単行本)
◎2005.11.17 『週刊新潮』の「TEMPO」に 書評 掲載★(単行本)

再録 [あとがき]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 一九七一年、十六歳の夏、城下町の川越でのんびり育ったサッカー少年がなにを勘違いしたのか、さわやかな題名にひかれてバタイユの 『青空』 を読み、その衝撃から生まれて初めて小説を書いた。タイトルは「糠星」。
 舞台になっているK高校とは、ぼくが七〇年に入学した川越高校のことだ。安保反対にはぎりぎりで間に合わず、異議申し立ての機運が急速に退潮していく中、マスコミは当時の若者をシラケ世代と呼び、高校生に無気力・無関心・無責任の三無主義のレッテルを貼った。そんな時代を背景にした二人の少年の友情の物語だ。
 それが学習雑誌 「高二時代」 の懸賞小説で一等になり、賞金十万円を手にしたことで、サッカー少年はそれ以降いつか一冊の本を書く≠ニいう悪夢にからめとられた人生を送ることになるのだが、本書にはその十六歳の処女作を含めて、七篇が収録されている。
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 初出は一九七〇年代が一篇、 一九九〇年代と二〇〇〇年代が三篇ずつ。 「糠星」 と「我々の美しい妻」のあいだには、三十七年もの時間が経過している。
 三十七年――。目の回るような時間だが、このあいだずっと書き続けてきたわけではない。大学時代は同人誌なども作っていたが、卒業後は情報誌「ぴあ」の編集者になり、しばらく小説から遠ざかっていた。
 十六歳の夏に見た夢が現実になったのは、それから二十年後のことだ。深夜、仕事を終えて帰宅し、ひと風呂浴びると、ぼくは台所のテーブルに向かい、憑かれたようにワープロのキーを叩いた。それがやがて一冊の本になることなど考えもせず、寝る間も惜しんで新宿を舞台に三百年にわたる物語を書き続けた。それが九〇年の単行本デビュー作『ストリート・チルドレン』だ。
 「泣くかもしれない」は翌九一年、「新潮」に書いた短篇だ。この七十枚の短篇と、同じく九一年に書いた短篇「舞い降りて重なる木の葉」(「マリ・クレール」)の二篇をもとにして、ぼくは八百五十枚の長篇 『夜の果てまで』(角川文庫) を書くことになるのだが、それは八年後のことで、本作はあくまでも短篇として完結している。
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 九六年の春、ぼくは十八年間勤務したぴあを辞めて、物書きに専念するが、小説を書くだけで家族を養えるような展望などまるでなかった。ただ、気を抜くと破片のように飛び散ってしまう週末や、深夜の台所で睡魔と闘いながら書くのではなく、平日の真っ昼間に悠然と書きたいと願い、その誘惑に抗しきれず、四十一歳にして会社を飛び出してしまったのだ。退職した翌日の二十四時間を描いたのが「ひらひら」で、退職後一年間にわたる夢の断章が「エーテル密造計画」である。
 表題作 「あなたのことが、いちばんだいじ」 を含めて、ぼくにとってはそれぞれ時代の節目となる七篇だが、今回久しぶりに読み返してみて、自分がその節目ごとに十六歳の夏の記憶に立ち戻っていたことに気づいて愕然とした。 「エーテル密造計画」 の冒頭には 「糠星」が出てくるし、さらに言えば 「折り紙のように」の四十六歳の主人公もまた、いまだに十六歳の自分にとらわれている。
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 最近作 「我々の美しい妻」は、「小説現代」 編集部より 〈官能小説特集〉の一篇として依頼を受けて執筆した短篇で、五十三歳の作である。これとあまりにも初々しい十六歳の作を一冊に収めることに、正直な話、ためらいはあった。
 だが、なにぶん本書に収められた七つの短篇は、それぞれの執筆時期が三十七年にもおよぶ。一人の人間の半生をたどるアルバムをひそかに覗き見るように読んでいただけたらと思う。すべてフィクションの衣をまとってはいるが、受験という閉塞状態の中で思い悩む十六歳の少年も、高校生になった愛娘を懸命に探す私立探偵も、温泉宿で老後に思いを馳せる五十男も、そのときどきの作者の姿を投影している。
 末筆ながら、文庫刊行に際して、光文社文庫編集部の鈴木広和さんには多大な労をとっていただいた。装丁では高林昭太さんに大変お世話になった。この場をお借りして、心から謝意を表したい。

  二〇一〇年 葉桜の季節に
                                           盛田隆二